サクリファイス

Sacrifice

淡々と、丁寧に、確実に、走る。



面白かった。
とっても良質なエンターテイメント。

ロードレース×ミステリーといった内容。
でも、ミステリー成分はそれほど濃くなくて、ロードレースを取り巻く環境や、実際のレースの描写が大半。

本の終わりの解説でも言及されてるけど、これだけマニアックな世界を簡潔に、丁寧に描ききる腕はすごい。
もちろん僕はロードレースの世界に入ったことはないから、あくまで理解した気になっているに過ぎないのかも知れない。
でも、新しく知る情報や、世界や、物語はすごく新鮮で読み進めるのが楽しかった。

するすると読み進められる。
「続きが気になってどんどんとページをめくる」、と言うよりも、「あと1ページだけ、あと1ページだけ」と思って読み進めているうちに、ラストへ向かっているという感じ。

なんていうか、良い本、ていうのは、心を強く揺り動かされたり、感動させられるものだけじゃないんだな、てのを再確認できた。

この本に震えるような感動はない。
でも、読み進めるのは単純に心地いいし、読み終わった僕は今、まんまとロードレースにほのかに興味を持ってしまっている。
やっぱり、「良質なエンターテイメント」てのがしっくりくる。

ただ本に流れる空気は、決して朗らかなものじゃない。
どちらかと言えば、ずっと曇り空のような暗澹として空気が流れている。

それはおそらく

・主人公の淡々とした語り口
・思いや策略が絡み合うロードレースというスポーツ
・1ページ目で展開する凄惨な事故

て感じのことからなのかなぁ。

主人公はアシストに徹する人柄で、もちろん勝ったら勝利を喜ぶんだけど、そこに強い熱情は感じられない。言わゆる覇気ってものはない。これはこの本全体にも言えることで、感情が表現される箇所はいくつかあるんだけど、そこから熱は感じられない。
でも、だからこそひっかからずにするすると読み進められたんだろう。

ロードレースも、スポーツが伴いがちな「爽やかさ」とは一見縁遠い世界だ。チーム競技が目指すものはチームの勝利だ。そのためには、時にはメンバーを利用し、踏み台にして勝利をもぎ取る。まぁ爽やかに語るのは難しいし、そうすると物語は薄っぺらくなるとも思う。

そして、これが肝だと思うのだけれど、一ページ目はいきなり悲惨な事故現場の描写から始まる。

熱で溶けたアスファルトに、少しずつ赤い血が広がっていく。
あらぬ方向に曲がった首と、ぴくりとも動かず投げ出された手。
茫然と立ちすくむ人たちの上で、空だけがさっきまでと変わらず青い。

そのまま、何事もなかったのかのように第一章が始まる。
予期された事故。それがこの先起こるのは確実。
そんな小さな緊張感の中ページをめくるのは、楽しい。

続編が出ている模様。
それも近いうちに読もー。
おすすめです。



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