『東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』—まぁまぁホント日記。

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四月某日 晴
風邪をひく。六年ぶりくらいに、お医者さんに行く。はりきって、よそゆきのブラジャーをしていく。迷ったすえ、パンツもよそゆきのにする。



読んでいるのに、忘れてしまった。
読んだのに、ではなく、読んでいるのに、「あれ、僕は何を読んでいるのだっけ」と忘れてしまう。
そんな不思議な、日記です。

僕はあまり、一気に集中して読み切る、ということがありません。
読んでは、パタンと閉じて、テレビを見て、また読んでは閉じ、昼寝をしたり、散歩をしたり。電車に乗っている時の読書も多いので、自然とちょくちょくかいつまんで読むことが多くなります。

この本も、同じように閉じては読む、を繰り返していたのですが、毎回、どこまで読んだのかよく分かりません。
ここかな、と当たりをつけて読み始める。うん、うん、と読み進め、数ページ進んだあとに、「あれ、ここ読んだな」と気がつきます。

この感覚を覚えるのは、この本だけではありません。
しかし、『卵一個ぶんのお祝い』は、読みながら、忘れていくような不思議な感触です。

一ページ前、一段落前、一行前が、すでにおぼろげです。
何を読んでいるのか、よくわからない。でも、面白いから、読む。
点が集まっても線にならず、ただただ、味わうように一つ一つその点を食べていく。
感想は、ぼんやりと、おいしい、です。


川上弘美の、日記。
5分の4くらいは、ホントらしいです。


十二月某日 曇
 寒い日。原稿の追いこみにかかっている。原稿の進み具合が不安定なので、気分を変えるために、いつも行ったことのない定食屋さんに夕飯を食べに行くことにする。
 B定食を頼み、店内を見回す。お客はみなマンガを読んでいる。マンガ回転率、合格。棚の上にテレビがある。NHKでなく民放のチャンネルにあわせてある。庶民率、合格。おばさんの愛想がない。さっぱり率、合格。厨房をじっと観察すると、「ごはんロボット」と書かれた機械が置いてある。愉快率、合格。
満足しながら、出てきたおかずに箸をつけたら、ものすごくまずかった。


読んでいて、ふふ、と笑ってしまう箇所が何度も。
でも、その笑いは尾を引かず、無意識にページを繰っていきました。


雨なので、さみしくて寒い。


なんでもない、シンプルな言葉に、時々流れる目が止まります。
しみじみと表現に感心して、そしてまた、早くもく遅くもなく、紙をめくっていきます。

装丁も、挿絵も、かわいい。
贈り物にしたくなるような、そのままふたりでかわりばんこに読みたくなるような、本です。

卵一個ぶんのお祝い。



よく晴れた、暖かい日に、電車の中で読み終えました。
本を閉じると、知らない駅。
リュックに本を入れ、5分の1の嘘を探しに、ペタペタとサンダルを鳴らしながら歩きました。



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