いつか自分だけの本屋を持つのもいい〜幅允孝〜

京都造形大学が行っている、東京芸術学舎というアートカレッジがあります。

東京芸術学舎
http://gakusha.jp/tokyo/


この中の1つ、いつか自分だけの本屋を持つのもいいという講義に参加しました。
全5回、始めの授業はブックディレクターの幅允孝さんでした。



授業の様子や内容を、一部分だけですがご紹介していこうと思います。

幅允孝さんの他に、フクヘン。でおなじみの鈴木芳雄さんが司会として参加されていました。
今日鹿児島から帰ってきたばかりだという幅さんがまず向かったのは、深沢に新しく出来た「SNOW SHOVELING」という本屋さんだそうです。


SNOW SHOVELING

snowshoveing


この書店名だけで由来に気がつく方もいるでしょうか?
SNOW SHOVELINGという名前は、村上春樹の「文化的雪かき」という言葉から来ています。


「君は何か書く仕事をしているそうだな」と牧村拓は言った。
「書くというほどのことじゃないですね」と僕は言った。「穴を埋める為の文章を提供しているだけのことです。何でもいいんです。字が書いてあればいいんです。でも誰かが書かなくてはならない。で、僕が書いているんです。雪かきと同じです。文化的雪かき」
「雪かき」と牧村拓は言った。そしてわきに置いたゴルフ・クラブにちらりと目をやった。
「面白い表現だ」
「それはどうも」と僕は言った。

村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』





村上春樹好きの店主さんが付けた書店名ですが、雪がまだまだ残る今、時宜を得た名前ですね。
古書と新刊、合わせて2500冊を有し、「なるべく広く浅く」をコンセプトにされてるそうです。
同時に「自分の好きなものだけしか置かない」というスタンスで、村上春樹やカレーの本が多めだそう。

書店というのは新規参入が難しく、取り次ぎとも契約できなかったそうですが、「村上春樹の一節を書店名にしてるのに村上春樹が置いてなきゃ意味がない」ということで出版社に直談判をして本を買取という形で卸してもらっているそうです(一般的に書店は売れなかった本を出版社に返品することができます)。

幅さんはSNOW SHOVELINGを「いい本屋です」とおっしゃり、そのまま「ではいい本屋とは何か」という話になりました。
印象的だったのは、「店主の顔が見える本屋がいい本屋」という言葉でした。本を選ぶという行為にどこまで自分を出せるか。それが鍵になるだろうという話でした。

その後は、幅さんが実際に手がけられた仕事を軸に話が進められていきました。

まずは、TSUTAYA TOKYO ROPPONGI。4月25日で10周年を迎えるTSUTAYA TOKYO ROPPONGIですが、本のディレクションは幅さんが担当されました。
本棚の編集と言えば、編集工学を提唱する松岡正剛さんが有名です。




ただ、幅さんはそこまで「編集」を意識しなかったそうです。
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIは「食」「旅」「デザイン」「アート」なんですが、どうしても入れたい本が出てきて悩んだそうです。
たとえば、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』。




以前当ブログでもご紹介したことがあります。

百年の孤独

本来ならば「外国文学」の棚に入れるものですが、それはできない。そこで、ガルシア=マルケスが南米の作家であることから、「旅」の南米コーナーに入れたそうです。そうすると、何だか意外にしっくりくる。
はじめから編集を意識していたわけではなく、「仕方なく」から始まっていったものがいい結果を生み出していったという話でした。

一般的な書店の旅に関する本棚は、旅行ガイド、地図、エッセイ、などのような分け方が多いですが、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIでは地域別で構成されています。その地域と関連があれば、旅行ガイドも写真集も小説も、一緒くたに並べられているのです。
例えば、インド地域の本棚には以下のような本が置かれています。










このような本の配置の場合、どうしても「分かりづらい」という問題も出てきます。
それには、二面展開で対応されたそうです。
例えば、横尾忠則の『インドへ』はインドコーナーに置くとともに、本来のカテゴライズであるアートコーナーに置くことで混乱を起きにくくさせています。


TSUTAYA TOKYO ROPPONGIの話で最も印象的だったのは、「お客様との共犯関係」というくだりでした。
TSUTAYA TOKYO ROPPONGIにはスターバックスが併設されています。今ではコーヒーなど飲み物を飲みながら本を見れる書店は見られるようになりましたが、当時はまだ一般的ではなく心配の声も多かったそうです。

ビールを飲みながら本を選べる書店
B&B

b&b


ただ、お客様を信じてみましょう、ということで始めてみると、予想以上に問題なく進んでいったそうです。意外に、「どうぞどうぞ」と行動を許すと、お客様のほうが気を使って動いてくれるという話でした。
ある日、雑誌が1冊だけ残っていてそれにコーヒーのシミが付いていたそうです。それを買おうとした男性はレジでシミに気付くと、「あー、いいよいいよ、仕方ない。俺が付けたシミかも知れないし」と言って買っていたそうです。

書店と利用者が自由な空間の中で許し合える。そうした共犯関係が生まれる空間ならば、気持ちのいい買い物ができることでしょう。
その居心地の良さ、魅力的な本を見つける喜び、気に入ったものを購入する楽しみ。それらを含め、気持ちのいい”体験”ができる、と言うこともできるでしょう。


その後も、「『体が気持ちよくなる』ということは重要」「本棚は作品になってはいけない」など興味深いお話が続くのですが、それは講座に出席された方達のお楽しみ、ということで。
今後の講座も、差し支えない範囲でご紹介していければと思います!


関連
いつか自分だけの本屋を持つのもいい〜江口宏志・中西孝之〜
いつか自分だけの本屋を持つのもいい〜三田修平〜


You may also like

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です