99%の誘拐

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歩かず、走らず、流れるように早足で。


「もう何年も経っているのに、現代でも十分通用するトリックなんです!」的な表現は手垢がついていてあまり使いたくないのだけれど、まさにそんな感じのミステリー。

1989年に吉川英二文学新人賞を取った作品。
もう十年以上前になるんだね。

なのにまぁ、パソコン大活躍の誘拐劇。
誘拐犯がPCで用意した音声で電話をかけてくる。
キーボードで打った言葉を音声に切り替える、てのが巷にも広がってきたのはここ数年のことじゃないのかな?
大学の授業で教授が風邪をひいて喉が痛いからって、ボーカロイドなのか、かたかたタイピングをして少年の声で授業をされたことがあった。
「最新だなーおい」なんて思っていたのだけれど、まさか10年以上前に1つの「ネタ」として使われていたとは思わなかった。

岡嶋二人の作品は初めてよんだのだけれど、文章はどちらかというと無骨というか、装飾がない無味な文体なのだけれど、展開はスピーディーに進んで行くからグイグイとページをめくれた。
だから結構重大な事実が読者にあらわになる時も、事前に特別な盛り上がりはなく、「うん、うん、え? あれ? そうなの?」といきなりの情報にたじろぐ。
そしてそんなのはおかまいなしに、スピードはゆるまず、どんどんと展開が進んで行く。

戸惑っているひまはない。

無表情の男が僕の手をつかんで、早足でぐんぐんと引っ張って行く。
様々な景色が横をかすめていく。
え、あれ、ちょっと待って。そう思うのだけれど、男はお構いなしに僕を前に引っ張って行く。
でも、そのスピードに身をまかせるのが気持ちいい。
そんな感触。

トリック自体は、ご都合主義的に見えるところもある。
でもそれは、僕たちには全く関係がない。
僕たちが味わいたいのはゆるまず進んでいく物語の速度で、それをわざわざ静止画にして「この部分はおかしいぞ」なんて指摘するのはナンセンスだ。

男はぐいぐいと僕らを引っ張る。
無表情で、空を飛ぶ、川を歩く。
なんだよそれーほんとかよ。
そうやって僕らは笑いながら、そこからの景色を楽しむ。
男は気にせず、僕らを引っ張り続ける。



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