湖水を渡って

透明な叫び


シルヴィア・プラスは、その才覚から名門大を出て、同じく詩人のテッドヒューズと結婚し一男一女をもうけます。
しかし、流産や離婚といった悲劇が続き、30歳の若さでガス自殺します。
ガスがもれないように、ふたりの子供が寝ている部屋の隙間にはタオルを詰めた、念入りな自死でした。

彼女が自殺した理由を、あれこれと想像することは可能ですが、彼女が持っていて底の深い、そして透明な悲しみは彼女だけのものでしょう。
なぜ彼女は自殺したのか。それは、彼女がシルヴィア・プラスだったから、としか言えないのかも知れません。

以前紹介した、「刑務所図書館の人びと」でもシルヴィア・プラスの著作が登場しました。

彼女は1963年に亡くなりましたが、その約20年後、彼女の全詩集が出版され、ピューリッツァー賞を受賞します。
この「湖水を渡って」は、その全詩集に含まれる1冊です。

絶望と、叫びと、諦観が混ざっているような本です。
それでいて、追いつめられた猫のように、こちらに噛み付いてきそうな鋭い目線を感じます。


湖水を渡って

闇の湖 漆黒の小舟 墨色の切絵のふたり。
ここで水を吸う黒い木はどこへ?
その影はカナダを覆うほど。

幽かな光が水中花から洩れる。
その葉はふたりが急くのを阻み
まるくのっぺり 暗い助言を湛えている。

冷たい世界が櫂をつたい波紋する。
暗黒の霊気はふたりの中に 魚の群の中に潜む。
沈み木は告別の 蒼ざめた手を挙げる

星屑はユリの花のあいだで瞬く。
あなた そんな無表情のセイレンに目が眩んでないでしょうね?
これこそ息をのむ魂の静淵


他にも、身を切られるような詩がいくつもあります。
僕が特に気に入ったのは、「私有地」という詩です。
よければ、手に取って読んでみてください。


笑いと叫びはよく似ている

これは、岡崎京子の「ヘルタースケルター」の巻頭に出てくる言葉です。

全身に整形手術をほどこしていく、りりこ。
彼女は自分の体にメスを入れ、痛みに耐えながら過去の自分を拒否していきます。

執拗に自分の体を切り刻むりりこ。ガスによって、自分の生を完全に拒否したプラス。
どちらも、強烈な”自虐”によって物語をつむぎます。


繊細で苛烈なプラスの詩は、彼女の叫びに見えます。
そしてそれは、だんだんと音のない笑いに転化していくようにも感じられます。


無傷では読めない本かも知れません。
でも、自分から傷つきにいきたい時だってある。

そうでしょう?



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