『異郷』—西江雅之が「居る世界」と「見る世界」。

 わたしはいつしか昆虫採集を止めて、写真を撮るようになった。被写体となる事物も、それぞれの道を持つ。景色には、季節や天候や背景が整って、良い顔を見せるまでの道がある。人は人生という道を歩みながら、それぞれの場でそれぞれの表情を見せる。わたしは路上に立ち、求める対象が気に入った場面の中に姿を表すと、シャッターを切る。
 この本に残されている写真は、ある時、ある場所で、わたしの眼前に現れた事物から掬い採った影なのである。



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『食客旅行』—旅した気分。旅したい気分。

しばらくすると、こんどは顔面と頭皮からの発汗が激しくなる。トウガラシが効いてきたのだ。汗ばかりでなく、目から涙が出、鼻からは洟汁が垂れてくる。そして最後には、全身の感覚が麻痺して、放心状態の中、下の上の旨味だけが抽出されて意識の表面を漂うようになる……。
これが、トムヤムクンの至福、である。



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『ぼくは猟師になった』—獲る。剥ぐ。採る。煮る。蒸す。焼く。食べる。

獲物が足を降ろす地点を想像するだけでなく、どの足でそこを踏むかまで計算する必要があります。掛かった脚は、暴れたりすると血管が締め付けられ、内出血などを起こしてしまいます。こうなると肉が傷んでしまうため、良質なモモ肉が取れる後脚よりも肉の量の少ない前脚に狙いを定めます。


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『山伏と僕』—ふつうの山伏

まず修行中、携帯電話は非常時以外には使わないこと。もちろんテレビも見られず、パソコンも使えません。また、返事は「はい」ではなく「承けたもう」で応えることも教わりました。羽黒山伏の返事には、それ以外の言葉はありません。すべて受け入れて、どんなことも断らないという意味だそうです。

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ヤノマミ——僕は読まなければならない。

自分の髪が逆立っているように感じられた。心臓が口からせり出しそうになるほど、激しい動悸も襲ってきた。そして、足が震えて、うまく歩くことができなかった。だが、僕たちは見なければならない。ここで見なければならない。僕は、それだけを唱え続けながら、震える足で森の中に立っていた。

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